僕ら教員が大学のカリキュラムをつくるというのは、こういうふうに学んだらいいよ、ということを決めて、示すことです。そして、制度として枠をはめる。このようなカリキュラム制作者というのは、ある種、建築家のような存在と言えます。個々の「建物」が個々人の「学び」、「まち」が「学びのコミュニティ」だと考えれば、わかりやすいでしょう。カリキュラム制作者というのは、建物とまちを設計するのに似ているところがあります。どちらも、そこで起こる出来事を誘発する環境を設計することです。まちづくりの場合と同じように、そこで活動する学生は多様なので、その多様性を認めつつ、全体としてまとまりのあるデザインをする必要がある。
僕らの学部、慶應義塾大学SFCでは、1年生から4年生まですべての学生が自分の好きな科目を履修することができます。学年や専攻の縛りがないんです。いわゆる理系の科目から文系の科目まで、非常に多くの科目が提供されていて、そのなかから、そのときどきの自分に必要な科目を選択・履修していきます。このようなカリキュラムにおける学びを支援するには、いろいろな方法が考えられます。たとえば、「この科目とこの科目をセットで履修するといいよ」というような「定食メニュー」を提示する方法があるでしょう。でも、僕は、この方法は学ぶ人の思考を奪ってしまうので、あまりよくないと考えています。
それではどうすればいいのか。少し抽象的に考えて、「学び方」を学ぶ支援をするということはできないだろうか。そういうことを考えて、パターン・ランゲージでいこう、ということにしました。このパターン・ランゲージによる方法は、間接的な支援なのですが、直接的で思考停止を生むよりもよいと考えました。少なくとも実験的に導入する価値はある。
それでは、ここで、「学習パターン」というパターン・ランゲージが、どのようなものなのかを、紹介していくことにしましょう。この冊子『Learning Patterns』には、僕らが考えた40個の学びのパターンが書いてあります。この40個は構造化されていて、1個、3個、36個で、合わせて40個という構造になっています。トップレイヤーの1個が全体を包括し、次のレイヤーの3個がその下の36個を束ねている、というかたちになっています。
さて、いくつかのパターンを具体的に紹介しましょう。
「まずはつかる」(学習パターンNo.7)。まずはつかってみて、どっぷりつかって、そこから始めるんだよ、というパターンですね。
「「まねぶ」ことから」(学習パターンNo.8)。「学び」という言葉は、「まねる」という言葉から来ていて、「まねぶ」ということです。「まねぶ」ことから、型を得て、そうして初めて型破りができるようになる。
「アウトプットから始まる学び」(No.13)。これは、インプットして最後に応用する、という旧来型の順番ではなく、まずなにがしかのアウトプットした上で、その経験を振り返り、自分が知らなかったこと、うまくできなかったことを学んでいく、というやり方です。
「学びの共同体をつくる」(No.28)。これは、「学び」というと、個人的な営みのように考えがちだけれども、複数人で学ぶことのメリットもある、という話です。
「「書き上げた」は道半ば」(No.35)。これは、「できたー!」と思った瞬間は、実はまだ半分で、そこから今度は読者にとって読みやすくなる文章にするための推敲が始まる、ということです。書きあげた段階をゴールとして設定してしまうと、締切の時にはまだ道半ばだった、というまずい事態になってしまう。実はこのパターンは、井庭研でこれまでに幾度となく言及されてきたパターンです。
「ゴール前のアクセル」(No.36)。人間という生き物は、ゴールに近づいて達成しそうになると、脳がブレーキをかけるんですね。行き過ぎないように。そうすると、ゴール前で前に進めなくなって、間際で達成できない、ということがしばしば起こります。そうならないためには、ゴールが近づいてきた段階で、次のゴールを設定し、今のゴールを通過点として捉え直すことで、今のゴールを減速することなく達成・通過できる、ということが知られています。
学習パターンには、このような具体的な学びのコツが書かれています。コツといっても様々なレベルのものがあって、学び始めの段階から、何かを生み出すという段階のものまであります。この冊子『Learning Patterns』には、こういうパターンが40個収録されているんです。